クリスマス特別企画連作小説『クリスマステロルのなく頃に』Part 1 作:榎本行宏

*この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切、関係ありません。また一部、主人公が右翼的思想を述べる描写がありますが、作者である榎本行宏の思想とは一切、関係ありません。物語を描写するためのフィクションです。この物語のテーマが『若き民族主義者の貧困と労働と生活と葛藤と青春。』というテーマの為、そのような描写があるだけです。繰り返しますが、作者の思想とは一切、関係ありません。そのような描写を嫌う方がいたら読まないことをおすすめします。


白水桜太郎さんに捧ぐ。


聖なる夜を汚さないで生と死なんて語らないで
(アーバンギャルド/セーラー服を脱がないで)


第一章『十字架式』


「神のご加護がありますように。」
そう言われてグレースコートを出た僕はクリスマスムードに沸く秋葉原の街へ放り投げられた。
グレースコートとは教会風のメイド喫茶で入る時は「迷える子羊よグレースコートへようこそ。」とシスターに言われて迎えられ、出る時は「神のご加護がありますように。」とシスターに言われて送り出されるといった感じのシステムのお店だ。ちなみにシスター以外にも神父さんとかもいる。通称『グレスコ』。
グレスコの中のあったかい空気に慣れてた僕は外の空気が寒くて冷たくて孤独感を覚えた。もう一度グレスコに戻って暖をとるのも悪くはなかったが残念なことにこれから予定があるためそうすることが出来なかった。街はクリスマスムード満天で秋葉原といえどもカップルたちで賑わっていた。そのことがまた僕に孤独感を覚えさせた。
「ちっ、リア充ども爆発しろ。」
僕は誰にも聞かれない声で独り言を呟いた。戯言だけどね。いーちゃんうにうに。
だいたい今日はまだクリスマスじゃないのにはしゃぎすぎだ。イブの一歩手前の23日だってのにどんだけクリスマスモードなんだってくらい街はクリスマスムード一色だった。おまえらクリスマスの前に今日は天皇誕生日なんだから天皇陛下を祝えよってつっこみを右翼な僕は叫びたかった。そんな僕は既にmixiのコミュの皇室スレで『天皇陛下の誕生日おめでとうございます!』って書き込んだからかなりの愛国者だ。そんぐらいしかできないけど。まぁ、いいけどね。
それにしてもほんとクリスマスモード一色である。街はリア充なカップルが充満しててカップル以外の人を見かけないぐらいである。独り者は僕ひとり。ひとりの僕以外みんなカップル。なにもここまで見せつけなくても…。なにもここまで見せびらかさなくても…。
圧倒的な徹底的な絶望的な精神的蹂躙を受けた僕は逃げ場を求めた。逃げ場に逃げたかった。だがそうすることは出来なかった。何故ならこれから予定がある。このカップルで充満された蹂躙された街の人混みにまみれて人混みを抜けて予定に向かわなければならなかった。だが予定と言っても恋人と待ち合わせだとか好きな人と待ち合わせだとか決してそんなリア充たっぷりなクリスマスなイベントではない。恋人もいなければ好きな人もいない僕にはクリスマスなイベントなどやってこない。クリスマスと対極な位置に地位に僕は置かれてるのだ。
「今年のクリスマスは中止です。」
そんなしらせが今すぐ聴きたいくらい僕はクリスマスを呪詛していた。
いや、僕のクリスマスなんて毎年中止だ。あの時、あのクリスマスにあんなクリスマスを味わった僕にとっては…。

さてここからがおもしろい。
美顔を損なう注釈を入れるとすれば本来ならここで『あのクリスマスであんなクリスマスを味わった』ことの内容である回想を挿入するのが物語のテーゼであろうが、しかしながらここで回想を中断しなければならない。何故なら回想を思い返してる主人公の僕に突然の来訪者が現れたからだ。
「やぁ。」
予定に向かってる途中であのクリスマスを思い出している僕にいきなり声をかける者がいて僕はびっくりした。 だから僕は言った。
「びっくりした。」
「やぁ。驚かせてごめん。それにしても凄いカップルの波だね。あの漫画やあの小説によく使われるあの台詞を言うのがうってつけの情況だね。だから言わせてもらうよ。『やれやれ』とね。」
「手相かなんかですか?」
「いや、残念ながら手相占いとかキャッチセールスの類いじゃないよ。僕は君を探してたんだ。いやぁ、このカップルの荒波の中、人混みに紛れてる君を探すのは大変だったよ。それにしてもこんだけカップルがいるなか僕ら二人だけ男同士だなんて奇蹟だね。運命的なものを感じないかい?」
「僕になんか用があるのですか?」
「そうそう、君に用があってきたのだよ。そうだ、挨拶しなきゃな。あ、メリークリスマス。といってもまだクリスマスじゃないけどね。」
「はじめましてですよね?」
「ああ、はじめましてだよ。」
「どなたですか?」
「夏木公彦。」
「って名乗られてもわからないけど。誰?」
「だから夏木公彦。夏に木にカタカナのハとムで公彦。」
「漢字で言われてもわからないけど。」
「なつききみひこ。」
「いや、別にひらがなで言えって言ってるんじゃないんだけど…。」
「やぁ、それにしても寒いね。明日は雪降るんじゃないかな。そしたらホワイトクリスマスだね。ホワイトハウスもびっくりなロマンチックが止まらないだね。」
「いや、あなたの喋りを止めてくれ。」
「あぁ、これはすまない。それにしても寒いからどこかお店に入って暖まりながら喋らないかい?」
「いや、僕このあと予定があるので…。」
「遠慮しなくてもいいよ。あそこのお店にでも入らないかい?アキバ一丁目劇場とかいうとこ。メイド喫茶っぽいけど。」
「いや、遠慮なんてしてません。ホントに予定があるのですみませんこの辺でさよなら。じゃ。」
「そうはいかないよ。こっちだって用があってきたのだから。付き合ってもらわなきゃ困るよ。」
「いやもう無理です。時間迫ってるんで。んじゃ。」
「なら仕方ない。これは奥の手の手段だったが…。」
そう言って夏木公彦と名乗るその男はスタンガンをとりだした。
だから僕は言った。
「びっくりした。」
「じゃあすまないがこういうことで。」
「マジでか?」
「うん、マジ。」
そう言って男は僕にスタンガンを押し付けた。
押し潰されそうな電撃が走って僕は気を失った。



そして目が醒めた。
起きたらなにやら見知らぬ部屋の中にいた。
そして手錠によって拘束されてて身動きがとれない。
どうやら監禁されたみたいである。
「やぁ、やっと目が醒めたみたいだね。」
男の声がする。
「おはよう。気絶した君をここまで運ぶには苦労したよ。少しダイエットした方がいいんじゃないか?」
「うるせえ。余計なお世話だ。」
「ずいぶんよく寝てたね。もう昼だよ。ところでお腹空かないかい?おにぎりあるけど食べる?食べれる?」
「余計なお世話だと言いたいところだが腹減ったので仕方ないから食べてやろう。」
そして僕は男からもらったおにぎりを食べる。
「もぐもぐ。」
「別にわざわざ『もぐもぐ』と擬音をたてて食べなくてもいいよ。それにそんなに急いで食べるとまた太るよ。」
「うるせえ。余計なお世話だ。」
「それは口癖かね?」
「どうだっていいだろ?それより僕になんの用だ?」
「用?」
「用って僕に用があって声かけたんだろ?」
「YO★★★」
「いや、ラップ風に誤魔化すな。」
「用…。そうそう、君に用があってきたんだっけ。」
「なんの用でこんな真似をした?用件にうつれ。」
「君に折り入って頼みがあってきたんだよ。」
「頼み?」
「そう、頼み。君が頼りのツナなのだよ。」
「頼みとはなんだ?」
「聴いてくれるかね?」
「聴かないとこの手錠を外してくれなさそうだからな。」
「よし、じゃあ頼みを言うよ。」
「なんだ?」
「或る事件を解決して欲しい。」
「事件?物騒だな。」
「そう、事件。」
「事件なんてそんなもん警察か探偵にでも任せろよ。それに事件と言えばこうやって僕を監禁しているのだって立派な事件だ。」
「まぁ、そう言いなさんな。実は事情が事情で警察には頼めないのだ。」
「なんで?」
「なんでも。」
「じゃあ探偵に頼めばいいじゃないか?」
「第三者の部外者は巻き込めないのだよ。それにいまどき新本格ミステリーの小説じゃないんだから事件を解決する探偵なんて現実にはいないよ。現実の探偵は浮気調査やいなくなったペット捜しが実際の仕事さ。」
「第三者の部外者を巻き込めないと言うのなら、僕だって第三者の部外者だ。」
「いや、君はもう充分、当事者だよ。」
「なんで当事者なんだよ。昨日逢ったばかりの僕が。当事者なら当事者を回避してくれよ。」
「いいや、回避出来ない。」
「出来なくてもなんでも僕は協力する気はない。だいたい事件の解決なんて出来やしない。僕は平凡なありきたりな日常を過ごす一般人なのだから。」
「いや、君は一般人じゃない。充分、狂っているよ。」
「狂っている?どこらへんが?」
「君が体験したあのクリスマスの件は聴かせてもらったよ。その件を繰り返し言おうか?」
「…何故お前があのクリスマスの件を知っているんだ?」
「妹さんから聴かせてもらったよ。」
「何故お前が僕の妹のことを…。」
妹とは京都に住んでいて実際の血のつながった妹ではなく、僕が高校生のときにネットで知り合った女のコですごい気が合い、その子が『お兄ちゃんが欲しい。』と言ってたから僕が『お兄ちゃんになってあげるよ』と言って血はつながってないけど兄妹の仲になった妹分の子のことである。ちなみに実際に逢ったことはないが、それ以来ずっといままで数年間、兄妹の仲である。ちなみに妹は僕のことを兄だから『アニー』と呼んでいる。しかし最近になって連絡がとれなくなっていた。だから心配していた。その妹のことがこの目の前の男の口から聴くとは思いもよらなかった。何故なら妹のことを他人に話したことなどないからだ。友人にも家族にも妹の存在を教えていない。なのに何故、この男から妹のことが…。
だから僕は言った。
「何故、お前が妹のことを知っているんだ?」
「妹さんのことは心配じゃないかね?」
「心配だよ。最近、連絡ないし…。」
「だったら事件解決に協力するんだな。」
「どういう意味だ?」
「妹さんから無事にまた連絡くるようにしたいのならば事件の解決に協力しろってことさ。」
「なに?お前まさか…妹になにをした?!」
「君にやったことと同じ事をしたまでさ。」
「貴様っ!まさか妹を?!」
「いまの君と同じように手錠かけて監禁したまでさ!」
「なんだと?!」
「だから監禁したのさ。妹さんを無事に返して欲しければ事件の解決に協力するんだ。どうする?」
「ふざけんな!事件の解決なんかどうでもいい!てかこれが事件だ!協力するもんか!」
「…往生際が悪いな。だったら妹さんの命はなくなるのだがいいのだな?」
僕は悩んだ。
「…。糞っ!わかったよ!協力してやるよ!事件の解決をしたら妹を解放してくれるんだよな?」
「ああ、約束するよ。わかったら宜しい。協力してくれるんだね?解決してくれるんだね?」
「…ああ、事件でもなんでも解決してくれてやる!解決に導いてやる!」
「宜しい。いい覚悟だ。ではまずは事件について…。」
「おい、まずはこの手錠をほどいてくれ。腕が痛くて仕方がないんだ。そしたら事件のこと聴いてやるよ。」
「…わかった。じゃあ、外すよ?」
こうして手錠は外れた。
その瞬間、思いっきり僕は男を殴りつけた。
殴る。
殴る。
殴る。
蹴る。
殴る。
押し倒す。
足で顔を押し潰す。
蹴る。
マウントに乗る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。殴る。
男の顔面に唾を吐きかける。
殴る。
男の顔面が水死体のように膨らみ始めた。
殴る。
殴る。
殴る。
男の顔面が血まみれになった。
思春期末試験の答案血まみれだわ。
何故か僕の頭の中でアーバンギャルドの『セーラー服を脱がないで』が流れた。
何故、頭の中でアーバンギャルドの『セーラー服を脱がないで』が流れたのか。
それは誰にもわからない。
僕の脳内は僕だけのものだ。
アーバンギャルドの『セーラー服を脱がないで』のリズムにあわせて殴る。
アーバンギャルドの『セーラー服を脱がないで』のリズムに反して殴る。
僕の拳も膨らみ始めたので殴るのを止めてポケットに手を入れてもしもの時の為に常備していたバタフライナイフを取り出して男に見せつけて僕は告げる。
「誰が事件の解決なんて協力するもんか!誰が事件のことなんて聴くものか!さぁ、今すぐ妹の居場所を吐け!じゃないと殺すよ?」
アーバンギャルドの『セーラー服を脱がないで』の歌詞の『ナイフを捨てなさい』のところが頭の中で流れてた。

続く。


続きを読みたい方はcontactより榎本行宏宛に問い合わせて下さい。(*ω*)